パンは強力粉でしか作れない。と、思っていませんか?
実は同じ強力粉でも、タンパク・灰分の量はさまざま。強力粉や薄力粉というカテゴリでとらえずに、タンパク、灰分、小麦品種や挽き方の違いなど小麦の性質を理解することで、小麦の選び方もきっと上達するはずです。
そこで、ベーカリスタの製品開発担当の加藤がおすすめする小麦粉選びに重要な3つのポイントをご紹介します。
1. タンパク・灰分値で選ぶ
一般的に、タンパク値が高いと”強力粉”と言われることが多いです。強力粉であれば、パン全般に使用することができます。ただ、ここで注意していただきたいのが、灰分値です。小麦の灰分とは小麦粒の外皮を含んだミネラルを指します。灰分値が高いと水が入りづらかったり、パンがあまり膨らまない場合があります。ただ、小麦の香りをより楽しみたい方には灰分値の高い小麦粉がおすすめです。
同じ強力粉でも、焼き比べてみると膨らみ方や焼き色が異なることがあります。これには「タンパク質」と「灰分」が大きく関わります。パンが膨らませるためには高タンパク質の強力粉を選ぶと改善されるかもしれません。
今回は成分表に書かれている「タンパク値」と「灰分値」の見方について解説していきたいと思います。
タンパク値が高ければ膨らむとは限らない
タンパク値が高いほどグルテンの量が多く、パンがよく膨らむと思われていることがありますが、そうとは限りません。
例えば、薄力品種である「きたほなみ」は、時にはタンパク値が12%を超えることがあり、超強力粉と同等のタンパク量の場合があります。しかし、超強力粉のようにしっかりと膨らむことはありません。なぜなら、タンパク質の性質が異なるからです。
小麦のタンパク質はグルテンであると考えられがちですが、グルテンとはタンパク質の一つであり、イコールではありません。ですので、タンパク量が多い=膨らむという考え方ではベストな小麦粉を選ぶ弊害になってしまう可能性があるので注意しましょう。
また、膨らまない小麦品種は製パン性が ”悪い”と考えられがちですが、発酵時間では考え方が変わります。先ほど例に挙げた「きたほなみ」は長時間発酵に向いており、ハードブレッド専用粉にはほとんど使用されていると言っても過言ではありません。パリッとしたクラストで、非常においしいバゲットを作ることができます。きたほなみ小麦もパン用小麦粉として万能な小麦品種なのです。
小麦品種の特性を理解することで、よりベストな選択ができるようになると思います。
灰分が高いと膨らみづらい
小麦の灰分とは小麦粒の外皮を含んだミネラルを指します。
灰分には多くの栄養素が含まれているため健康的なメリットもあり、さらには小麦の香り、味わいをより感じることができます。しかし、灰分値が高いと膨らみづらいことがあります。また、同じ加熱時間でも灰分が高い方が焼き色も色濃くなります。ホワイトでふわふわなパンを求めている方なら、少しくすんで見えるかもしれません。
思っていたよりもあまり膨らまないと思ったら、
タンパク:12%以上 | 灰分:0.45% |
を目安に小麦粉を探してみるといいかもしれません。
2. 品種で選ぶ
タンパク値の高い小麦粉でも、パンが膨らみやすいとは限りません。例えば、タンパク値が12%以上のきたほなみ小麦の場合はどうでしょうか。きたほなみ小麦は薄力品種として誕生した小麦です。ですので、タンパクの量は多くてもタンパクの性質が異なるため、ソフトな食パンなどにはあまり向きません。このためベーカリスタでは製パン性を考慮し、強力粉ではなく中力粉または薄力粉と明記することがあります。
小麦品種の基本的な特性
超強力系 | ゆめちから、みのりのちから |
---|---|
強力系 | はるゆたか、春よ恋 |
準強力系 | はるきらり、キタノカオリ |
中力系〜薄力系 | きたほなみ |
3. 挽き方で選ぶ
小麦粉の挽き方には”ロール挽き”と”石臼挽き”の大きく2つに分けられます。
ロール挽き
ほとんどの小麦粉はロール挽きで製粉されています。ロール挽きとは2本の金属のローラー同士の間に小麦を通すことによって粉砕するやり方です。ロール挽き製粉は粉砕と分別を繰り返して徐々に製粉するため、小麦の外皮(ふすま)を取り除くことができ、白い小麦の部位だけを取り出して製粉することができます。
大量に製粉できるためコストも安く短時間で製粉ができ、かつ製パン性の高い小麦粉を製粉することができます。
石臼挽き
一方石臼挽きは、大きな円柱状の石を回転させてその間を小麦を通すことで粉砕します。昔ながらの方法で、昔は風車や水車で動力を得て石臼を回していました。
粉砕の際に発生する熱を石が吸収してくれるため小麦の香りを高く保つことができ、主に全粒粉として製粉されます。製粉に非常に時間がかかるため大量生産には向いておりません。
ベーカリスタの強力粉〜薄力粉の考え方
実は、強力粉や薄力粉という考え方は日本独特のもので、世界各国ではそれぞれ独自の表示がされています。強力粉だからといってクッキーを焼けないわけではありませんし、薄力粉だからといってパンにならないというわけではありません。作りたい生地の食感、作り手のお好みによって最適な小麦粉を選んで楽しんでいただきたい。というのが私たちの考え方です。
しかし、パッと見なに向きなのかわかった方が良いということもあり、ベーカリスタでは下記のような基準で各商品の種類を決めています。
強力粉 |
食パンなどパン全般、また、ピザや麺など幅広く使用できる小麦粉 |
---|---|
準強力粉 |
ハードブレッド、あっさりとした食パン、クロワッサンにおすすめの小麦粉 |
中力粉 |
麺、スコーンなど重めの生地の焼き菓子用としておすすめの小麦粉 |
薄力粉 |
スポンジケーキなど口溶けの軽い焼き菓子としておすすめの小麦粉 |
全粒粉 |
灰分が1.00%を超えるもの |
強力粉だからお菓子は無理。とか、薄力粉だからパンは無理。と考えず小麦粉は意外と万能に使えますから積極的にいろいろなレシピにチャレンジしてみると、小麦粉への理解が深まりますし、意外な発見やベストな組み合わせ、あなたに最適な小麦粉が見つかるはずです。