湖のほとりのお店は、わたしの暮らしの中にある。

「ペンネンノルデ」 安部さや子さん

湖のほとりのお店は、わたしの暮らしの中にある。

北海道千歳市にある支笏湖は、空港から車で約1時間ほど離れたところ。支笏湖の湖畔にはレストランや雑貨屋さん、テイクアウトの飲食店などが立ち並び、多くの観光客で賑わっています。そこから少し湖の方へ下ると、安部さや子さんが営むマフィンのお店「ペンネンノルデ」があります。

散策していると立ち寄りたくなる、湖のほとりの憩いの場所です。お店は週4〜5日で営業、時々イベントに出店する日もあります。

湖のほとりにある小さなマフィン屋さん。

扉を開けるとカフェスペースがあり、マフィンとコーヒーを楽しむお客さんで賑わっています。窓際の席に座りガラス窓から外を見渡すと、そこには青くて穏やかな湖の景色が広がっています。

お店の中には可愛らしい木彫りクマの雑貨などがいくつか置いてあり、北海道の風土を感じさせます。中央にある棚にはオーガニック食材やイラスト詩集、絵本などが並び、自然豊かであたたかい空気感に包まれています。

マフィンは自然の中で食べるからおいしい。

ガラスケースの中には10種類ほどのマフィン。焼き菓子を少し、気まぐれでパンも焼きます。マフィンを手に、外へ出かけようとすると「カラスが狙うから気をつけて」と笑う、さや子さん。マフィンはテイクアウトすることができ、それを手に山を登ったり、湖でカヌーに乗ったりと、アウトドアのお供にもなります。

さや子さん自身も、休日は外でマフィンを味わう感動を体感するために、山へ湖へ足を運びます。マフィンが美味しく食べられる最高のシチュエーションと、マフィンをつぶさずに持ち運ぶ方法を常日頃から研究。さや子さんはこれを ”フィールドテスト” と呼んでいます。持ち運びができるマフィンをメインの商品にしたのは、たくさんの種類が作れることと、「自然の中で食べてほしい」という彼女の想いがあるからです。

緩やかに迎える朝。

マフィンはその日の朝に焼きます。天気がよければ少し多めに。季節や天候に合わせて、お客さんの足取りを予測しながら作る数を決めます。多めに焼くのではなく、足りなければ足していく。無駄がでないように、一つひとつ丁寧に焼き上げます。ベースの生地は統一されていて、バリエーションが増やせるように工夫されたレシピ。具材には、できるだけその季節に採れた果物を取り入れています。自然の動きに合わせるかように変わってゆく、四季折々の豊富なバリエーションが楽しめるマフィンです。

焼き上がったマフィンを丁寧に袋に詰めて、ガラスケースの中に並べます。マフィンとコーヒーの甘い香りが漂いながら、10時にお店がオープン。開放感のある大自然に囲まれた、ペンネンノルデの1日が始まります。

最初は雑貨屋さんを始めようと思っていた。

さや子さんは大学を卒業後、北海道中標津町で事務職の会社員として働いていました。当時は特別お菓子作りをしてきたわけではありませんでしたが、カフェと雑貨屋さんが好きで、日頃からよく巡っていたと言います。特に食器が大好きで、食器を集めるだけでなく職人さんに逢う旅に出るほど。

「田舎暮らしでは自分がほしいと思うものが、なかなか手に入らなかった」と語るさや子さん。それを自分の手で作り上げたいという気持ちが、いつしか「自分のお店を持ちたい」と思うようになりました。

「最初は雑貨屋さんを始めようと思っていたんですが、『お茶くらい出したら?』と父のアドバイスを受け、そこから飲食の道を考えるようになりました。」

自分のお店と自然のある暮らしがしたくて。

ずっと田舎で暮らしてきたさや子さんは、「自然があること」は住む上での必須条件。30歳になった頃、長年住んでいた町を離れ、ニセコ周辺に移住しました。そこは山々が聳え立つ大自然に囲まれた町で、冬はスキーを楽しむ観光客で賑わいます。さや子さんは町の飲食店で働き、そこでお店の経営について学ぶ日々を過ごします。

「自分でも始められるお店はなんだろう」と、無理なく小さく始められる構想を練っていました。時には、お店を持つのは諦めたほうがいいんじゃないかと、心配する声もありました。それでも諦めずに、自分のお店と自然のある暮らしを求めてきた10年間。マフィンなら1人でも作れるかもしれないと考え、レシピは少しずつ準備していました。
「ここで諦めてしまうと、今までの積み上げてきたものが無駄になってしまいそうで。そのことを考えると逆に不安になり、やる気につながった」と語るさや子さん。

ついに始まった、わたしの暮らし。

たまたま支笏湖を訪れた時に見つけた、自然に囲まれた条件のいい物件がありました。「ここだ!」と思い、お店をはじめることを決意。2016年の4月にペンネンノルデをオープンしました。

「オープン当初は、その土地の人も知らなくて不安の残る日々でした。引っ越しも重なって、寝る余裕もありませんでしたね。小麦粉の大袋の上で、よく寝落ちしてたんです。あれ、柔らかさが程よくて、心地いいんですよ。」

わたしがずっと食べ続けられるものだけを作りたい。

現在のマフィンは、乳・卵を使用せず、材料はオーガニック中心のものにこだわっていますが、オープン当初のマフィンは、現在のような食のこだわりはありませんでした。

花粉症に悩んでいたさや子さんは、約1年間、食生活をできるだけ無添加にしてみることに。すると、翌年には症状はありませんでした。この体験が自分の体について考えるきっかけとなり、支笏湖での暮らしの中で少しずつ食生活が変わっていきます。
普段の食生活では無添加のもの、オーガニックなど自然・体に優しいものにこだわりを持つようになり、お店でも「わたしが食べ続けられるマフィン」を提供したいと思うようになりました。

「わたし、『無添加』っていう言葉があまり好きではなくて。言葉のイメージでごまかすようなことはしたくないんです。」

言葉のまやかしで流通していることにあまり納得していない様子で語ります。さや子さんは、家畜の餌のほとんどは遺伝子組み換え農作物を使用していることを知っていました。

「野菜はたどることはできても、家畜の餌までたどるのは難しい。だから、動物性の食品をマフィンの生地にするのは辞めたんです。」

一部使用している乳製品であっても家畜の餌を含めて信用できるものだけを使用。マフィンに使う材料は一つひとつにこだわり、お客さんに向けて産地や仕入れ先を公開するようにしています。

1人でも多くの人に食べてもらいたくて。

ペンネンノルデは地元の人に愛され、現在のお客さんのほとんどがリピーターです。それでも、以前のレシピから方向性を変えたことは、さや子さんにとって大きな決断でした。お客さんは離れていかないだろうかと不安もあり、多くの人に相談したと言います。

無添加でアレルゲンをできるだけ除いたマフィンには、「1人でも多くの人に選択肢を与えたい」というさや子さんの愛情が込められています。アレルギーのあるお客さんが「これなら食べられる!」と喜んでくれたとき、そして「おいしい!」と言っていただけた時が、幸せを感じる瞬間なのです。

わたしのお店は暮らしとリンクしている。

段ボールを再利用した手作りのメニュー表、マフィンやコーヒーの産地が書かれた地図、置いてある本や雑貨。お店にある全てから、さや子さんのこだわりや暮らしの一部が垣間見えます。
コロナ禍で支笏湖の観光客が少なくなった時でも、「今はとても穏やかで、ゆっくりするにはおすすめですよ〜」と、変化を楽しむようにほほ笑むさや子さん。彼女の人柄、考え方に共感し、自然が大好きな人たちが、今日もここに足を運びます。

ペンネンノルデのブログには、お店に関する情報というより、さや子さん自身の体験や想いを綴る場所に。

「生き方も場所も、どれが最上というものではないし、どこだって最上だと思う。わたしはわたしのあるがまま、小さな暮らしを守りたい。それが自然のバランスに近ければ近いほど、いいような気がする。」(ペンネンノルデ:店主ブログから)

ペンネンノルデは自然に囲まれた支笏湖のほとりにある、さや子さんの暮らしの中にあるのです。

ペンネンノルデの頼もしいパートナー。
さや子さんの夫・安部怜さん

怜さんは支笏湖をカヌーで案内する人。ペンネンノルデの隣にあるカヌーのお店のスタッフとして働いています。数年前にさや子さんと結婚。その後、ペンネンノルデにもコミットし、コーヒーを入れたり、パンを焼いたりと、お店のお手伝いをしています。怜さんのこだわりの焙煎で淹れるコーヒーは格別です。

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