ベーカリスタの朝

街もまだ目を覚ましていない早朝。私の1日が始まる。

家族の朝食とお弁当の準備、お洗濯にお掃除。それに加えて1回目の生地の仕込みがあるのが普通の主婦とは違うところ。家族を送り出したらお店の準備。主婦の顔からパン職人の顔に変わる。

この瞬間が好きだったりする。今日はどんな1日になるだろう。

売上より、喜びを

お店を経営していく以上、売上は絶対に大切なのはわかっている。でも、目的が売上になると心が荒んでいく気がして。

このベーカリーは売上が欲しいから始めたわけじゃない。

パン作りが好きで楽しくて、色々な人が美味しそうに私のパンを食べてくれことが嬉しくてこのお店を始めた。でも、お店を維持していくことは楽じゃない。私がやりたくて初めたお店で家族に迷惑をかけるわけにはいかない。やっぱりお金だってすごく重要。

けれど、それでも一番大切なのは、お店を始めた時の気持ちだから
やっぱりお客様が喜んでくれるパン作りを一番大切にしたいと思う。

何をしたいかではない、どうありたいか

若い頃はやりたい事が沢山あって衝動につき動かされて、失敗も沢山した。好奇心旺盛でどこにでも出かけていって周りを心配させる子だった。人との出会いで学ぶことは多く、私は周りの人たちに恵まれて、今ここまでやってこられた。

それから少し年を重ね経験を積んだ今、大切なのは「ありかた」だと思うようになった。私はどうありたいのか。色々な考えの人がいるけれど、私が大切にしたいのはやっぱり人。いつも来てくれる常連様、親切なご近所様、原料を提供してくれる業者様、そしていつも私を理解して支えてくれる家族。私の周りの人のために私は、私にできることをしていきたいと思う。それが私のありかた。

私のベーカリーで提供するパンは大切な人が食べるものだから、素材選びをとても大切にしている。基準は私基準。

私が家族に食べさせてもいいって思える物しか使わない。

できるだけ自然に近いものを使いたいし、健康によい食材を使っていきたい。地元の素材をできるだけ活用して、地域のお役に立ちたい。四季折々、旬の食材を取り入れて、喜んでもらいたい。

幸せな仕事ってなんだろう?

忙しい日が続くと仕事が楽しくないと感じる自分にハッとする。望んで始めたことなのに、弱気な自分が顔を出すと不安と後悔に襲われることも、正直言うとある。そんな時はちょっと疲れているのかもと気付いて、お店をお休みさてもらうようにしている。お客様には申し訳ないけれど、これがお店を長く続ける秘訣。

仕事をする上ですごく大切なのは、まず自分自身がワクワクして楽しんでいること。私が情熱を持って取り組めることでなければ、本当に良い仕事はできないはず。でも、それだけでは本当に幸せな仕事とは言えない。

私の仕事が誰かの喜びや幸せと重なり合って、本当に幸せな仕事ができるのだと思う。

簡単なことではないけれど、大切にしたいこと。

子供達のために

子供達が成長するにつれて、その愛情は大きくなっていったけれど、母として子供達にできることって限られているなと最近思う。のびのびと健康に成長してもらいたいという願い。たどり着いたのが「食」だった。

食について自分なりに研究していくうちに
何が良くて、何が良くないのか、私の中にも基準が生まれていった。

美味しくて身体に良いパンを食べさせてあげたいと思って子供達と家族のためにパンを焼き始めた。誰かのためのパン作り。私にとって、すごくワクワクして楽しいこと。私が焼き始めたパンは子供達や家族をこえて、友人や地域の人達、周りの人達にも食べていただくようになった。

私の心も、子供達や家族と合わせて
周りの人達の健康と幸せも願うようになった。

その想いの結晶がこの小さなベーカリーなのだと思う。若い頃は世界の平和を願うなんて言われてもピンとこなかったけれど、私の世界は少しずつ広がって、今は少しだけ世界の平和を願うってことがわかってきた気がする。そして、根底にあるのはやっぱり子供達への愛だということも。

ベーカリスタのために

私たちはこうして頑張っていらっしゃるベーカリーシェフの皆さんを「ベーカリスタ」と呼んでいます。

ベーカリスタの目的には愛があり、素材選びや製法も、食べていただくお客様への愛に溢れています。お金を稼ぐ手段としてではなく、豊かな人生を送るためにパンを焼きます。お客様をはじめ、地域のみなさん周りの方との絆を大切にして、地域活性化のためにパンを焼きます。だから小さなパン屋さんには魅力が溢れています。

私たちは、そんな皆さんへの敬意を込めてベーカリスタと呼んでいます。